コールセンターの運営において「オペレーターが定着しない」「応対品質が安定しない」といった課題は多くの企業が抱える共通の悩みです。
昨今では顧客接点の多様化(マルチチャネル化)も進み、従来型の運営体制では対応が追いつかないケースも増えています。 こうした状況の根本解決に必要なのは、単なる「人手の配置」ではなく品質と効率を両立させる「運営基盤の構築」です。
戦略的な組織設計から、スーパーバイザーの育成、適切なKPI設計と評価まで見直すべき点は多岐にわたります。 本記事ではコールセンター運営の基本から、成功に必要なポイント・運用上のよくある課題とその解決策まで、体系的に解説します。
自社での運営に悩む企業、あるいは外注化を検討中の担当者にも役立つ実務的な視点で構成しています。
目次
コールセンター運営とは、顧客からの問い合わせ対応を担う部門の組織・人材・業務フローを構築し継続的に改善していく活動全般を指します。 その役割は単に電話を受けるだけでなく、顧客体験(CX)を向上させ、企業と顧客との良好な関係を築く戦略的拠点へと変化しています。
近年、対応チャネルは電話以外にもEメール、チャット、SNSへと広がり、「コンタクトセンター」と呼ばれる形態が主流になりつつあります。
コールセンターが主に電話対応を担う体制を指すのに対し、コンタクトセンターは電話に加えてEメール、チャット、SNSなど複数のコミュニケーションチャネルを統合して顧客対応を行う体制を指します。
分類 | 説明 |
---|---|
コールセンター | 主に電話対応を担う体制を指す |
コンタクトセンター | 電話に加えてEメール、チャット、SNSなど複数のコミュニケーションチャネルを統合して顧客対応を行う体制を指す |
コールセンター運営を成功させる第一歩は、「自社にとってこのセンターが果たすべき役割は何か」という目的を明確に定義することです。 目的の例としては、以下のようなものが挙げられます。
これらの目的に基づき、最終的なビジネス上のゴールとして「KGI(重要目標達成指標)」を設定します。 KGIには、「年度末までに顧客満足度を90%以上に向上させる」「解約率を前期比で5%改善する」といった、事業成果に直結する具体的な数値を設定します。
そして、このKGIを達成するための日々の業務プロセスが適切に行われているかを測る指標が「KPI(重要業績評価指標)」です。 例えば、「応答率」「一次解決率」「平均後処理時間」などがKPIにあたります。
コールセンター運営の品質と効率は、オペレーター個人のスキルだけでなく、組織としての役割分担と体制設計に大きく左右されます。
コールセンターの運営体制は、主に以下の役職で構成されます。
役職 | 業務内容 |
---|---|
オペレーター (CSR) | 顧客からの問い合わせに直接対応する、コールセンターの最前線を担う存在です。 定められたマニュアルやトークスクリプトに基づき、正確かつ迅速に顧客の問題を解決する役割を担います。 |
スーパーバイザー (SV) | オペレーターの業務を管理し、現場のパフォーマンスに責任を持つリーダーです。 主な業務は多岐にわたり、オペレーターの指導・育成、応対品質のモニタリングとフィードバック、オペレーターでは対応困難な問い合わせ(エスカレーション)の二次対応、シフト作成などの労務管理、業務報告書の作成などを担当します。 |
マネージャー | 複数のスーパーバイザーをまとめ、コールセンター全体の運営管理を担う責任者です。 応答率や解決率といったKPI(重要業績評価指標)の進捗管理、業務プロセスの分析と改善、採用計画の立案、他部署との連携など、より戦術的な視点でのマネジメントを行います。 |
センター長 | コールセンター全体の最終責任者として、事業計画や収支に責任を持つ役職です。 センターが目指すべきビジョンを示し、クライアント(アウトソーシングの場合)や経営層との折衝も行います。 |
コールセンター運営の根幹を支えるのが、客観的な数値に基づいた目標管理体制です。
まず、事業ゴールであるKGI(重要目標達成指標)から逆算して、日々の業務プロセスを測るKPI(重要業績評価指標)を明確に設定します。 これらの数値をリアルタイムで可視化する仕組みを整え、その達成度を個人やチームの評価に適切に反映させることが重要です。
オペレーターごとの対応品質のばらつきをなくし一定水準を保つためには、業務マニュアルとトークスクリプトの整備が欠かせません。 これらは業務の属人化を防ぐと同時に、新人の早期戦力化や教育時間の短縮にも大きく貢献します。 最も重要なのは形骸化させないことです。
オペレーターからのフィードバックを定期的に反映し、常に現場で使える「生きたドキュメント」として更新・改善し続ける姿勢が求められます。
SVは現場のオペレーターと管理者層の橋渡し役を担うコールセンターの要です。 効果的なSV育成には、OJT(実務研修)だけでなく、リーダーシップ、コーチング、問題解決、ストレスマネジメントといった多角的な研修を体系的に提供することが有効です。
さらに、オペレーターの離職率抑制はコールセンター運営における永遠の課題です。 SVがオペレーター一人ひとりに対して適切なフォローや精神的なケア、キャリア相談を行える体制を整えることが現場の安定と定着率の向上につながります。
単に窓口を増やすだけでなく、すべての顧客接点で一貫した質の高い顧客体験(CX)を設計し、提供するオムニチャネル(全てのチャネルで、一貫した購買体験を提供する戦略)の視点が重要になります。
コールセンター運営には、多くの企業が共通して抱える構造的な課題が存在します。オペレーターの人材不足や高い離職率、新人・ベテラン間での応対品質のばらつき、あるいは手作業が多く残る非効率な業務プロセスなど、その内容は多岐にわたります。
これらの課題を放置すれば、顧客満足度の低下やコストの増大といった悪循環を招きかねません。
以下では、特に現場で起こりやすい代表的な3つの課題を取り上げ、それぞれの具体的な解決策を解説します。
課題 | 解決策として有効な施策 |
---|---|
人材不足と離職対策 | ・面接段階から業務内容をリアルに伝え、ミスマッチを防止 ・ステップアップ制度や資格取得支援などキャリアの見える化 ・チーム制の導入やメンター制度による心理的フォロー ・成果に対する評価とフィードバックの仕組み強化 ・シフト希望の柔軟対応や在宅勤務制度の導入 |
業務効率化ツールの導入 | ・CRMシステムの活用:顧客情報や履歴の一元管理 ・FAQ・ナレッジベースの共有:回答のスピードと正確性向上 ・チャットボットの導入:一次対応を自動化し、負荷分散 ・音声認識と自動記録:応対ログの省力化 |
応対品質のばらつきと教育の均一化 | ・ロールプレイングや録音確認による実践的なOJT ・応対基準(クオリティガイドライン)の策定 ・モニタリング結果を用いた定期フィードバック ・高評価応対の共有 ・ナレッジ化 ・定期的なスキルチェックとフォローアップ研修 |
コールセンターの立ち上げや運用を検討する際、多くの企業が直面するのが「自社で運営するか、外部に委託するか」という判断です 。 どちらにもメリット・デメリットがあり、企業の体制や目的によって最適な選択肢は異なります 。
このように、自社運営と外注にはそれぞれメリット・デメリットが存在します。
最終的には、「目的・業務範囲・予算・体制」の4軸で総合判断し、自社に合った運営形態を選ぶことが重要です。
コールセンターの運営を外部の専門業者に委託する「外注(BPO)」は、有効な選択肢の一つです。専門的なノウハウを活用でき、コストを抑えられるといったメリットがある一方、自社の意図が伝わりにくくなるなどの懸念点も存在します。
そのため、外注化を成功させるには、メリットと留意点の両方を事前にしっかり把握し、自社の目的や状況に合っているかを慎重に見極めることが重要です。
項目 | 自社運営(インハウス) | 外注(BPO) |
---|---|---|
初期費用 | 高い (数百万円〜) | 低い (初期設定費など) |
ランニングコスト | 固定費 (人件費、賃料など) | 変動費 (従量課金、時間制など) |
柔軟性 | 高いが、 属人化のリスク あり | 業務量や契約範囲に応じて 調整可能 |
外注すべきかどうかの判断基準としては以下の観点が有効です。
コールセンターの立ち上げには、単なる人員確保だけでなく、運営方針や体制、システム整備など多角的な準備が必要です。 ここでは、立ち上げ時に特に重要な4つの観点を整理して解説します。
まず、センターの目的を明確にし、それに紐づく成果指標(KGI)と運用評価指標(KPI)を設計します。
対応件数に応じて必要なオペレーター数を試算し、あわせてSVやマネージャーといった管理者の配置も検討します。
業務を支えるIT基盤も必須です。
立ち上げ時の品質を安定させるには、標準化された業務マニュアルとトークスクリプトが欠かせません。 また、初期教育ではOJTだけでなく、ロールプレイやシナリオ訓練を取り入れることで即戦力化を図ります。
以下はインバウンド業務を想定したトークスクリプトの基本的な構造と例文です。ここから、想定される内容に合わせてカスタマイズしてください。
構成 | 例文 |
---|---|
オープニング(第一声) | 「お電話ありがとうございます。株式会社〇〇、担当の△△でございます。」 |
用件のヒアリング | 「本日はどのようなご用件でしょうか?」 |
共感・傾聴 | 「さようでございますか。ご不便をおかけし、申し訳ございません。」 |
回答・提案 | ‐ |
保留・転送時の対応 | 「恐れ入りますが、確認のため少々お待ちいただけますでしょうか。」 |
クロージング(締め) | 「その他、何かご不明な点はございますでしょうか。…お電話ありがとうございました。」 |
コールセンター・コンタクトセンターの立ち上げについては以下の記事で詳しく解説しています。
現在ではテレワークの普及に伴い、コールセンター業務の在宅化も加速しています。以前は「セキュリティ」や「管理体制」の面で課題が多く、導入が難しいとされていましたが、現在ではクラウド型システムや各種ツールの進化により、在宅運用が現実的な選択肢となっています。
以下では、在宅運用のメリットから、その実現に不可欠な環境整備、そして運用を成功させるための管理・コミュニケーションの工夫について順を追って解説します。
在宅コールセンターの導入は、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらす、現代的な運用形態です。まず、企業にとっては、通勤が困難な優秀な人材も採用できるなど人材確保の幅が広がり、働きやすさの向上から離職率の低下も期待できます 。さらに、感染症や災害時にも事業を継続できるBCP対策として有効であり、オフィスの賃料や交通費といった拠点費用の削減にも直結します 。
上記のようなメリットを最大限に享受し、在宅運用を成功させるためには、計画的な環境整備が不可欠です。特に重要となるのが「クラウド型システムの導入」「セキュリティ対策の強化」「在宅勤務ルールの整備」の3点です 。場所を問わずオフィス同様の業務を可能にするシステム基盤を整え 、VPN接続やアクセス制限で情報漏洩を徹底して防ぎます 。その上で、勤怠などの明確なルールを文書化し、従業員と共通認識を持つことが安定した運用の基礎となります 。
そして、物理的に離れた環境でチームの生産性を維持するには、管理やコミュニケーションの方法にも工夫が求められます。定期的なオンライン面談や朝礼で孤独感をなくし一体感を醸成する 、KPIなどで成果を可視化して公正な評価を行う 、チームチャットでこまめに情報共有し円滑な連携を促すといった取り組みが、在宅でも高いパフォーマンスを引き出す鍵となります 。
コールセンターを継続的に改善し、成果を出すためには運営状況を可視化する指標=KPI(重要業績評価指標)の設計が不可欠です。 日々の運用を感覚ではなく数値で捉え、改善サイクルを回していくことで、品質・効率・顧客満足のバランスを最適化できます。
以下に、実務でよく使われる代表的なKPIを分類して紹介します。
分類 | KPI指標 | 概要 |
---|---|---|
応答・処理に関するKPI | 応答率 | 着信に対して応答できた割合 |
平均応答時間(ASA) | 呼び出しから応答までにかかった平均時間 | |
放棄呼率(ABN率) | 着信があるものの応答されずに切断された割合 | |
処理件数 | オペレーターごとの1日あたりの対応件数 | |
応対品質に関するKPI | 一次解決率(FCR) | 初回の応対で問題が解決された割合 |
クレーム率 | 総対応件数のうち、苦情に該当する件数の割合 | |
通話時間・後処理時間 | 平均通話時間や入力・対応終了までの時間 | |
スクリプト遵守率 | 定められたマニュアル通りに対応できた割合 | |
顧客満足と生産性に関するKPI | 顧客満足度(CSAT) | 応対後アンケート等で測る満足度スコア |
NPS(ネットプロモータースコア) | 企業やサービスを他人に薦めたい度合い | |
稼働率/離席率 | 実稼働時間の割合、離席の頻度 | |
オペレーターごとの成果評価指標 | 定性評価(言葉遣い、態度など)も含む |
コールセンターの立ち上げや運用開始にあたっては、複数の領域で事前準備が求められます。 準備不足は品質トラブルや運営の混乱を招くため、以下のチェックリストをもとに運用開始前に必要な要素を網羅的に確認しておきましょう。
分類 | 準備項目 |
---|---|
運営方針・体制関連 | ・運営目的、KGI(成果目標)、KPI(評価指標)が明確になっている ・必要な人員数と役職(オペレーター/SV/マネージャー)が定義されている ・シフトや稼働体制、営業時間などが確定している |
業務設計・教育関連 | ・応対マニュアルとトークスクリプトが整備されている ・教育プログラムとOJT体制が設計されている ・対応範囲やエスカレーションルールが文書化されている |
システム・設備関連 | ・PBX、CTIなど通話システムが導入、設定されている ・CRMやFAQシステムが稼働状態にある ・通話録音、応対ログの保存環境が整っている ・セキュリティポリシーやアクセス制御が策定されている |
運用・評価体制 | ・KPIが定義され、ダッシュボードやレポート形式が設計済み ・応対品質の評価基準とフィードバック方法が定まっている ・エラー、クレーム対応の体制が明文化されている |
A. 準備期間は通常、3〜6ヶ月が目安です。 人材採用、システム導入、マニュアル整備など各種工程を同時並行で進める必要があります。
A. はい、可能です。 数席規模から対応しているBPO事業者も多く、繁忙期だけのスポット対応も選択肢として検討できます。
A. 電話以外にもチャット・メール・SNSなど複数のチャネルで顧客対応が可能になります。 顧客接点が広がり、利便性・満足度の向上が期待できます。
コールセンター運営の成否は、単なる「応対の良し悪し」だけでなく、戦略的な体制設計・人材育成・IT基盤・継続的な改善活動の積み重ねによって決まります。
まず、明確な運営目的と指標(KGI/KPI)を持ち、定量的に目標を追う体制が必要です。 そして、オペレーター・SV・マネージャーなど役割ごとの責任を明確にし、属人化を防ぐことも品質維持に欠かせません。 また、FAQやスクリプトの整備、CRMなどのシステム導入によって業務効率を高めることも、応対品質とコストパフォーマンスの両立に繋がります。 さらに、チャットやSNSなどを含むマルチチャネル対応によって、顧客との接点を最適化する視点も今後は不可欠です。
コールセンターの運用開始後は、KPIモニタリングやフィードバックの仕組みを通じて、改善サイクルを日常的に回すことが重要です。
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